スマートウォッチ、健康に悪かった

ガジェットに「通知された通りに気分が悪くなる」

ますます人気のフィットネス・ウォッチ。腕につけるだけで心拍数や運動量、消費カロリー、睡眠状態などを計測し、健康状態を毎日更新してくれるそれは、健康管理に役立つアイテムとあって、需要が増えている。

昨年のブラックフライデーの売り上げで、最も人気のあったアイテムのトップ10のうち、アップル・ウォッチのさまざまなモデルが4つもランクインしていたことはまだ記憶に新しい。ほんの20年ほど前までは、オリンピック選手でさえ入手困難であったような高レベルの健康測定が、今では一般人にとっても身近なものになっている。

そんなフィットネス・ウォッチは、その人の健康を改善・サポートするためのものとして、概ねポジティブに報じられてきた。実際、24時間年中無休の監視によって導き出された精密なデータや通知は、多くの人々の健康を最適化し、生産性を改善するのに役立ってきた。効果を実感している人も少なくないかもしれない。

しかし、一方でこんな指摘もある。

「あなたが腕につけている健康を改善するためのガジェットは、時にあなたを不健康な心理状態に陥れる可能性がある」

米メディア「ブルームバーグ」のテック・コラムニスト、ティム・カルパンは、寄稿したオピニオン記事のなかで、人々がフィットネス・ウォッチのデータを信じて頼るようになった今こそ、「ノセボ効果」についても着目するべきだと主張する。

この場合の「ノセボ」とは、フィットネス・ウォッチからのフィードバックによって、自分の健康に対する自信が失われる現象を指す。

たとえば睡眠。目覚めは良かったが、フィットネスウォッチを確認すると睡眠のスコアが低い。体の回復率もいまいちだ。これらの情報によって、気持ちよく目覚めたのもつかの間、画面のデータが示すように「昨日はあまりよく眠れかった」気分になり、「疲れが取れていない」気がしてくる。

こういった暗示のようなネガティブ心理的副作用が、プラセボ効果（有効成分が含まれていない薬剤によって、症状の改善・副作用などが見られること）の逆の「ノセボ効果（ノシーボ効果、反偽薬効果）」だと、同氏は説明している。

他にも、米ニュースサイト「インサイドフック」のライターは、自身の「ノセボ」経験についてこう語っている。

フィットネス・ウォッチが「今日はストレスレベルが高かった」と、ご丁寧に教えてくれるたびに、なんとなく感じていた眠気や倦怠感を自覚する。日によっては逆もしかりで、フィットネス・ウォッチを確認して、「やっぱり。だから今日はこんなにダルいのか」と、答え合わせをすることも。

自分のダルさを、フィットネス・ウォッチに「立証」してもらい、並べられた証拠（データ）によって、自身の疲労を確認する。そして、その確認作業が完了すると、「私はガジェットが言う通りの、時にはそれ以上の“疲れている人”になっている」。

https://courrier.jp/cj/274579/