うつ病、やはり甘えだった。脳に特殊な装置を埋め込んで電気刺激を送るだけで改善

重いうつ病を抱え、あらゆる治療法を試してきたが、改善が見られない──そんな彼女を救ったのは、脳にデバイスを埋め込み、「個人の脳の状態」に合わせて電気刺激を送るという画期的な手法だった。

【画像】彼女の深刻なうつ病を治してくれたのは、「脳に埋めるペースメーカー」だった

5年前、サラはノースカロライナ州の仕事場から自宅に向かって車を走らせていた。彼女は深刻なうつ状態に陥っており、人生を終わらせることしか考えられなくなっていた。

「泣くのをやめられませんでした」と、現在38歳になったサラは言う。「帰る道すがら、このまま車で沼地につっこみ、溺れ死んでしまいたいという考えに駆られました」

サラは無事に自宅に帰れたが、そのあとすぐに両親と同居するようになった。一人で住むのは危険だと医者が判断したからだ。もはやまともに働くこともできず、医療技術関連の仕事を辞めることになってしまった。

サラはおよそすべての治療法を試した。20種類ほどの薬を試し、病院の日帰りプログラムに何ヵ月も通い、電気ショック療法や経頭蓋磁気刺激法もやってみた。しかし、世界中にいる250万人以上のうつ病患者のうち3分の1がそうであるように、彼女の症状も治ることはなかった。

だがその後、サラはある実験的な治療法に関する研究に、最初の患者として参加することになった。現在、彼女は自分の病をかなりコントロールできている。データ分析の授業を受け、一人暮らしの自宅に戻り、転倒した母親を手伝いに行けるほど回復したのだ。

「何ヵ月かのうちに、自殺願望がぴたっとなくなりました」とサラは言う（プライバシー保護のため、名字は明かしていない）。「それからは段階的に変化がありました。世界を見るレンズが変わったように感じたんです」

「生きるに値する人生を取り戻した」
カリフォルニア大学サンフランシスコ校に所属する研究チームは、外科手術を行い、サラの脳にマッチ箱サイズの電池式装置を埋め込んだ。

「脳のためのペースメーカー」と呼ばれることもあるこの装置は、サラが抑うつ気分を感じたときに起こる神経活動のパターンを検知する。そして、うつに歯止めをかけるため、電気刺激による振動を送る。

2020年8月、この装置が機能し始めてから12日後、サラのうつ病の尺度は33から14にまで減少した。数ヵ月後には、この数値は10以下にまで下がった。サラの鬱は「おおむね快方に向かっている」と、研究者たちは報告した。

「この装置のおかげで、うつが軽減されました。一番良い状態の自分になり、生きるに値する人生を取り戻せたのです」とサラは言う。

サラの事例は、脳深部刺激療法と呼ばれる手法を個人の状態に合わせて適用し、うつ病を治療することに成功した初の事例だ。

この手法がどの程度、またどれほど多くの患者に有効なのかについては、さらなる研究が必要だ。しかし現在、複数の科学者のチームが、個々の患者の脳内で起こっていることに合わせた電気刺激を送る方法を探っている。

https://news.yahoo.co.jp/articles/bd0075e17c2044c5bea127ea9bed8efd697a7f5c